プラズマと固体表面の化学反応相互作用は,各種材料表面の高性能化・高機能化に応用されている.プラズマ材料表面処理技術は主に成膜(PVD,CVD,溶射など),拡散処理(浸炭,窒化など),表面改質(官能基の付与など)に分類され,その用途は摩擦特性・トライボロジー特性の制御,生体特性の改善,親水性・接着性の制御,ガスバリア性の付与,半導体デバイス作製と,一部の例を挙げただけでそのバリエーションが極めて多岐にわたることが分かる.これらプラズマ表面技術は各分野で技術開発が進んでおり新技術が次々と創成されているため,技術展開の動向を体系的に理解し,各技術に共通する問題や新技術の情報共有を効率的に行うことがさらなる技術発展につながると期待される.このため本調査専門委員会では各分野におけるプラズマ表面技術の進展状況を調査し,体系的な理解とそれぞれの分野の研究者による情報共有を図ることが目的である.プラズマ表面技術に関しては他学会でも研究活動が行われているが,本委員会では電気学会の役割を明確にすべく「電気工学」の視点から理解を深めることに焦点を置き,他学会との差別化を図りたい.


プラズマ材料表面処理技術はそれぞれの分野でおおよそ50~60年かけて独自に進化してきており,異なる歴史を有している.そのような状況の中,本学会において平成11年に「プラズマを媒体とする素材表面改質処理プロセス技術調査専門委員会」が設置され,多様なプラズマ表面技術の体系的な理解へ向けた試みがなされた.当該委員会の技術報告「プラズマを用いた素材の表面改質技術」では各技術がコーティング技術と表面改質技術に分類され,またプラズマは低温プラズマと熱プラズマに分類されて報告がなされている.その10年後にあたる平成21年には「メタルスパッタプラズマの高度化専門調査委員会」が設置され,ここではプラズマ表面技術の中でもスパッタに重点が置かれ,電子デバイス作製やハードコーティングといった当時の多様な最新応用事例がまとめられた.来る平成31年はこのさらに10年後にあたり,現在では10年前には存在すらしていなかったプラズマ表面技術の開発や新技術創成の取り組みがなされている.表面処理に用いられるプラズマ自体も低温プラズマと熱プラズマでは分類できないほど多様化しており,例えば大気圧プラズマや液中プラズマが当たり前のように用いられている.さらに最近では非中性プラズマを応用した新プロセスや,核融合炉壁の研究分野で発見された表面ナノ構造形成の研究も進んでおり,プラズマ表面技術を新たな概念をもって理解しなおすべき時期を迎えている.


上記のように,プラズマ表面技術の応用事例やプラズマの分類は多様化の一途をたどっている.従ってここではプロセスの種類を大きく「成膜」「拡散処理」「表面改質」「新概念」の分野に分け,まずはそれぞれの分野において技術進展が極めて顕著なトピックを網羅的に調査する.

1)プラズマ成膜技術の最新動向
  ● 高速成膜
    ○ マグネトロンスパッタリング(HiPIMS)
    ○ マイクロ波励起・高密度基材包囲プラズマ
    ○ 大気圧プラズマ
  ● 粉体スパッタリング法
  ● 省電力プラズマ溶射法
2)プラズマ拡散処理技術の最新動向
  ● 熱プラズマによる高速拡散処理
  ● 大気圧プラズマによる拡散処理
  ● 液中・気中放電プラズマによる拡散処理
3)プラズマ表面改質技術の最新動向
  ● フッ素樹脂の表面改質
  ● ナノ材料の親水化技術
  ● 微細連続多孔質体内壁のプラズマ処理
  ● 低エネルギーイオンを用いたプラズマプロセス
4)プラズマ表面技術の新概念
  ● 非中性プラズマを応用したプラズマプロセス
  ● 表面ナノ構造形成

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